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東京高等裁判所 昭和52年(行ケ)160号 判決

一 請求の原因1ないし3の事実については、当事者間に争いがない。

二 そこで、本件審決を取消すべき事由の存否について判断する。

1 まず、原告は、本件審決が「撮影光学系の具体的レンズの構成が本願発明の要件の一部であると解したうえ、本願発明における撮影光学系は球面レンズで構成されたものである。」とした点が誤りである旨主張する。

前記争いのないところによると、本願発明における撮影光学系及びこれによつて形成されたフイルム面の画像に関する「特許請求の範囲」の記載としては、「映画フイルム用生フイルムにその上下方向に半分に短縮されたフイルム面に順次の画面が同一方向をとる正像をなす画面を得るよう、……光学系を使用し露光して撮影しこれを現像して上下方向に短縮されたフイルム面に正像をなす画像を形成したフイルムとする」との記載があるのみであつて、撮影光学系を特定のレンズ構成のものに限定した記載はない。

成立について争いのない甲第三号証(本願発明に係る特公昭四五―三五一五八号特許公報)によれば、本願発明の「正像」の意義に関して、「発明の詳細な説明」の欄には、「ここに正像とは、撮影された像が、通常の映画の映写と同様、歪像レンズを使用することなく、球面レンズ系レンズで映写し、正しい像をスクリーン上に映し出すことができる画像、すなわち、常識的意味において、そのままスクリーン上に映写して観られる画像を意味するもの」であるとの記載の存することが認められ、更に、成立について争いのない甲第一七号証(一九二五年六月九日特許に係る米国特許第一、五四〇、九〇二号明細書)及び弁論の全趣旨によれば、フイルム面上に正像を形成する撮影光学系に関して、垂直方向と水平方向の二つの円筒レンズを光路において協同させた光学系は、単一の球面レンズの効果、すなわち、一方の円筒レンズは垂直方向のわん曲を与え、他方の円筒レンズは水平方向のわん曲を与える効果を奏することが、原出願前に公知であつたことが認められる。

右の各事実に照らしても、本願発明は、撮影光学系の具体的なレンズ構成は、これを問うことなく、従来一般に知られていた前記のような撮影光学系のレンズ構成を用いてフイルム面上に正像の画像を形成するものであれば足りるものと解すべきである。

右の事実に徴すると、本願発明の明細書の「発明の詳細な説明」に歪像レンズ(円筒レンズ)についての実施例がないことをもつて、右判断を左右することはできない。

この点の被告の主張は、失当というほかはない。

したがつて、撮影光学系の具体的レンズの構成が本願発明の要件の一部をなすものと解したうえ、本願発明の撮影光学系は球面レンズで構成されたものに限定されるとした審決の判断は、本願発明の内容を誤つて理解したものというべきである。

ところで、本願発明は、昭和三三年七月一一日出願の昭和三三年特許願第一九五七八号特許出願(原出願)から、旧特許法(大正一〇年法律第九六号)第九条第一項の規定に基づき分割出願されたものであることは当事者間に争いのないところであるが、成立について争いのない乙第一号証(特公昭四〇―三七一号特許公報―原出願明細書)によると、原出願に係る発明の「特許請求の範囲」の記載は次のとおりであることが認められる。

「生フイルムを被写体の左右方向に対し上下(歪像レンズによる横方向圧縮の像を含む。)方向に<省略>に圧縮された歪像を得るように歪像光学系を使用して露光し、このフイルムを現像してフイルム上に上下方向に圧縮された歪像を一こまに形成したフイルムとし、この画像をその像の圧縮された歪像に逆比率をもつて伸長復元するよう映写機の歪像光学系を使用してスクリーン上に正像を映写するようにすることよりなる映画フイルムの半量節約撮影及び映写方法。」

更に、同号証によれば、原出願の明細書の「発明の詳細なる説明」の欄には、「横方向圧縮の歪像レンズによる広角撮影と兼用すれば、従来と全く正反対な像現象を起す。すなわち、第4図(イ)、(ロ)においてL1´L2´L3´L4´L5´は従来の横方向に圧縮する円筒レンズで、これにより被写体を左右(横)に<省略>圧縮し、その圧縮された像を上述の撮影レンズの前群(円筒レンズ)L1L2L3L4L5によつてさらに上下(縦)に圧縮する。これによつて得た像は、前に述べたように上下、左右をそれぞれ<省略>に圧縮された像であり、従来の横方向圧縮用の歪像レンズにより撮影された広範囲の被写体と相似する正像となる。従来までは、横方向圧縮の歪像を映写するとき、球面映写レンズと歪像レンズ(円筒レンズ)を組合せて映写していたが、本発明では、像が圧縮された正像であるため、焦点深度の大きい像であり、広角度映写レンズ(球面レンズ)だけでも映写することができる。」(一頁右欄二五行ないし三九行)との記載の存することが認められる。

そして、成立に争いのない甲第四号証の一ないし三によれば、これらの各技術的事項は、原出願の出願当初の明細書においても記載されていることが認められる。

これら「特許請求の範囲」及び「発明の詳細なる説明」の記載に基づいて原出願の発明を理解すると、原出願の発明には、本願発明に相当する「(上下方向及び横方向に<省略>に圧縮された)正像を得るよう歪像光学系を使用して露光し、このフイルムを現像してフイルム上に形成され圧縮された正像を一こまごとに形成したフイルムとし、この正像の画像を広角度球面映写レンズを使用してスクリーン上に正像を映写するようにすることよりなる方法」が含まれていることは明らかである。

この点、被告は、本願発明が前記の如き原出願からの分割出願であることを考慮に入れた結果、本願発明の撮影光学系を「球面レンズのみで構成されたもの」に限定したのであるから、原告主張のような誤りはない旨主張する。しかしながら、特許発明の技術的範囲は、明細書の特許請求の範囲の記載に基づいて客観的に定められるべきものであり、被告主張のように、本願発明が前記のような原出願からの分割出願であることから、原出願に係る発明の内容を参酌して本願発明を限定解釈することは、許されないものというべきである。

したがつて、原告の取消事由(一)(1)における主張は理由がある。

2 以上の検討の結果及び前掲乙第一号証からすると、本願発明の要旨は右のとおり認定すべきものであるから、原出願もしくは本願発明の特許請求の範囲について補正がない限り、被告主張のとおり、原出願に係る発明の特許請求の範囲に包含されているとの理由で、分割の要件を満たしていないことにもなりえないわけではないものと考えられるが、審決は、前記の如く本願発明の技術的内容を誤つて理解し、この誤つた前提に立つて、原出願の出願当初の明細書には「球面レンズのみで構成された撮影光学系は記載されていない。」として本願発明について出願日の遡及を認めなかつたものであるから、その判断の基礎に明らかな誤りがあり、違法として取消を免れない。

三 よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を正当として認容することとする。

〔編註その一〕 本願発明に関する事項は左のとおりである。

1 特許庁における手続の経緯

原告は、昭和三三年七月一一日、名称を「映画フイルムの半量節約撮影及び映写方法」とする発明について特許出願(昭和三三年特許願第一九五七八号、以下、「原出願」という。)をし、その後、昭和三九年一二月一九日、旧特許法(大正一〇年法律第九六号)第九条第一項の規定による分割出願として、名称を「ワイド画面におけるフイルムの半量節約映画方法」とする発明について特許出願(昭和三九年特許願第七一五一八号、以下、「本願発明」という。)をしたところ、昭和四五年一一月一〇日出願公告(特公昭四五―三五一五八号)がされた。これに対し、訴外酒井一弘から特許異議の申立があり、昭和四七年四月二八日、右特許異議の申立は理由があるものとする決定とともに、出願について拒絶の査定がされた。

そこで、原告は、同年七月二八日抗告審判を請求(昭和四七年審判第六七八二号事件)したが、昭和四九年五月二八日「本件審判の請求は成り立たない。」との審決がされたので、原告は、これを不服として東京高等裁判所に右審決の取消請求訴訟を提起し、昭和四九年行(ケ)第一一三号事件として審理された結果、昭和五二年三月二四日、「特許庁が昭和四九年五月二八日同庁昭和四七年審判第六七八二号事件についてした審決を取消す。」との判決がされ、同判決はその頃確定した。そこで、特許庁において更に審理された結果、昭和五二年七月一一日「本件審判の請求は成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)がされ、その謄本は、同年八月一七日原告に送達された。

2 本願発明の要旨

映画フイルム用生フイルムにその上下方向に半分に短縮されたフイルム面に順次の画面が同一方向をとる正像をなす画面を得るよう、該生フイルムを標準のそれに対し半分の定速度で輪動しかつ所定位置において標準間欠かき落し長さの半分の長さずつ標準駒送りをもつて間欠的にかき落しながら光学系を使用し露光して撮影しこれを現像して上下方向に短縮されたフイルム面に正像をなす画像を形成したフイルムとすること及びかかる上下方向に半分に短縮されたフイルム面に形成された上記の正像をなす画像から広角球面映写レンズの如き通常の光学系を使用してワイド画面に投影せしめそのワイド映画を得ることを特徴とするワイド画面におけるフイルムの半量節約映画方法。

(別紙図面参照)

〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。

図面

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